NO.64 未済(びせい="Not Yet Fording"):未完成、可能性

未済(びせい="Not Yet Fording")シンボル









未済(びせい="Not Yet Fording")





⚊ 6th:陽:上9(Upper9)
⚋ 5th:陰:65
⚊ 4th:陽:94
⚋ 3rd:陰:63
⚊ 2nd:陽:92
⚋ 1st:陰:初6(First6)

※上9(Upper9)、65、94、63、92、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。


構成の解説

上卦(Upper trigram)は、「☲ 離(り:Li)」="Radiance":太陽・火・文明・付着する

下卦(Lower trigram)は、「☵ 坎(かん:Kan)」="Gorge":水・雨・雲・泉・危険・落とし穴

既済("Already Fording")が完成だったのに対し、未済("Not Yet Fording")は「未完成」。

この卦(Hexagram)では、六つの爻(Lines)すべてが、「陽」が入るべき位置に「陰」が入り、「陰」が入るべき位置に「陽」が入る。

すべてがミスマッチしているから、運営に支障が生じ、トラブルも起こる。

形態としては最悪である。

しかし易経の判断は必ずしも悪いものではない。

今が困難な時期であるとしても、これから良くなっていく、という判断であり、未来的である。

すべてがミスマッチしてうまくいかない状況では、人は互いに協力し合うようになり、自分でも思ってもみなかった能力が開発され、失敗の経験が未来の成功へとつながっていく。

この卦(Hexagram)は、易経64卦(Hexagram)の最期の卦(Hexagram)である。

天と地、陰と陽で始まった易経は、人間世界や宇宙の様々な局面と法則をくまなく見渡して進んできた。

最後、この「未完成」という困難な状況にたどり着く。

しかしそこから全く新しい未来が生まれる可能性を示唆しつつ、易経の旅は終了する。

そこに、易経が単なる道徳書ではない、偉大な哲学の集成である証と、作者の意図する人間の可能性を我々は垣間見ることで、世界の秘密の一端を知る。

未済(びせい="Not Yet Fording"):未完成、可能性
未済(びせい="Not Yet Fording"):未完成、可能性。象徴として子ギツネ。


卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「あなたの願いはかなう。まだ若い子狐が川を渡ろうとして、最後にその尻尾を濡らしてしまい渡り切れない。これだといいことはない。(が、この経験を生かせば、次は渡れる。)」

卦辞 未済、亨(とお)る。小狐(しょうこ)汔(ほと)んど済(わた)る、其の尾を濡らす。利するところなし。 (未済、亨。小狐汔済、濡其尾。无攸利。)

未済("Not Yet Fording")は、未完成という意味です。

既済("Already Fording")は、完成という意味でした。

この二つは対応しあった卦(Hexagram)です。


易経では、めでたい判断が出るための原則がいくつかあります。

<その1>

六つの爻(Lines)は、奇数位置の爻(Line)は「陽」が入っていれば「正しい」。

偶数位置の爻(Line)は、「陰」が入っていれば「正しい」とされます。

<その2>

卦(Hexagram)の中では、対応する位置関係があります。

一番目と四番目の位置、二番目と五番目の位置、三番目と六番目の位置は、対応関係にあります。

ただし、「陰」と「陽」の組み合わせでなければ対応関係は発生しません。

「陰」と「陽」の組み合わせだと調和し、恵みの雨が降ります。

めでたい関係となります。

<その3>

五番目の位置は君主の入る位置で、「陽」が入るとめでたい。

二番目の位置は家臣の位置で、「陰」が入るとめでたいです。


既済("Already Fording")が、上の「めでたい基準」のすべてを満たしていたのに対し、未済("Not Yet Fording")では<その1>と<その3>がすべて正しくない状態です。

しかし、卦辞(Explanation of the Hexagram)では最初から「あなたの願いはかなう」といい、既済("Already Fording")よりもはるかに肯定的です。

すべての爻(Lines)が、位置と性質が不適切であることは、状況としてはいいはずはありません。

しかし、易経は、すべてのものは循環していくという思想に基づいています。

今、運が良いものは、世界が移り変わっていけば悪い状況にもなるし、今が運が悪くても、世界が移り変わっていけば良い状況にもなるというのが易経の考え方です。

世界が、陰と陽がそれぞれ移り変わって止まることがないように、いい運気も変化の過程の一瞬ですし、悪い運気もまたそうです。

「すべて完全に不適切」な状況も、一瞬の出来事に過ぎません。

むしろ今まさにすべてミスマッチして物事が通らない時代だとすれば、今後はミスマッチが改善されていきます。

運気が最低な人は、この不幸な時代に経験することが実力に変わっていった先には、大きなチャンスをつかみます。

なので、この卦(Hexagram)は、「あなたの願いがかなう」と言います。

が、その後に続くイメージは意味深長です。

まだ若く経験が少ない子狐が、川をほとんど渡り切ろうとしているのですが、最後にその尻尾を濡らしてしまいます。

狐は川を渡るときに尻尾を高く上にあげて渡ります。

尻尾が濡れるということは、渡れなかったことを意味し、このようならばなにもいいことはない、と易経は結論づけます。

しかしこの失敗が、子狐にとって経験となります。

子狐が成長した暁には、最終的には川は渡れるだろう、だから、「願いがかなう」のです。

そうした意味で、「今はまだ失敗するであろう若い者」として、「子狐」が登場しています。


この卦(Hexagram)では、上卦(Upper trigram)の中心である65が「陰」です。

65はリーダーですが、高い地位にあっても謙虚で冷静さを失いません。

彼はあらゆる状況に対して柔軟に対応できます。

彼は失敗を未来への教訓としますから、願いが実現する可能性があるのです。

一方で下卦(Lower trigram)の中心は92です。

彼は、「☵ 坎(かん:Kan)」="Gorge"すなわち落とし穴の真ん中にはまったままです。

なので、あなたは完全に危険を切り抜けた状況ではありません。

まだまだあなたは経験不足なのです。

子狐は現段階では川を渡り切れませんので、あなたは今はまだなんの成果もあげられません。

しかし、失敗が成功につながれば、いつかは川は渡れます。


またこの卦(Hexagram)では、「陰」「陽」の位置がすべて正しくありません。

しかし、この卦(Hexagram)では、「めでたい基準」の<その2>は条件を満たします。

爻(Line)同士の対応関係はすべて「陰」と「陽」が調和しています。

状況的にすべてが不適切でうまくいかないけれども、みんなが協力し、助け合っています。

不適切な立場に置かれることは、ミスマッチではありますが、しかし新しい知識や技能を習得するにはいい機会です。

やがて少年が大人になります。

その日には、既成概念にとらわれぬ新しい成功が可能となります。

未来が開けていくはずですから、今はみんな苦しみながら、その先を見据えて努力しましょう、と易経は言うのです。


この卦(Hexagram)が出たら、あなたはすべてがミスマッチした、混乱の中にいます。

あなたは経験したことのない仕事をやらされ、苦労します。

失敗することもあるでしょう。

しかし、あなたを取り巻く状況は、みんなが試行錯誤しながら協力し合っています。

あなたも含めたみんなが、失敗しながら実力を習得していけば、大きな成功につながります。

ただし、危険な状況でもあります。

用心深くやりましょう。

甘く見ると、川でおぼれるような災いに遭遇します。

おぼれ死んでしまったら、無意味です。


◇ひと言アドバイス(象)

物事を本質ごとに分類しよう

この卦(Hexagram)は、上が火で、下が水です。

火と水がそれぞれの性質に基づいて上と下にあり、混ざり合うことはありません。

既済("Already Fording")では、上が水で、下が火でしたから、お湯を沸かすことができました。

未済("Not Yet Fording")では、ミスマッチしているのでお湯は沸かせません。

しかし、火が上へ上昇し、水が下に溜まるのは、それぞれの性質に合致しています。

そこで易経のアドバイスとしては、この未済("Not Yet Fording")の時においては、物事の性質をよく観察して本質を見抜き、性質ごとに分類しなさい、と言います。

すべてがミスマッチしているということは、不都合が発生するから、それぞれの正しい性質が明らかになります。

人事や取引についても、ミスマッチから自分と相手の本質がわかるものです。

互いの本質がわかったら、互いに適した役割がわかります。

相手の性質を理解して、適切な配置を行うことは、人事の基本です。


ミスマッチとは、天に与えられた実験室のようなものです。

うまくいかないから、人は考えます。

この偉大なる実験の時を生かして、前例のない未来を切り開いていきましょう。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

⚊ 6th:陽:上9(Upper9)
⚋ 5th:陰:65
⚊ 4th:陽:94
⚋ 3rd:陰:63
⚊ 2nd:陽:92
⚋ 1st:陰:初6(First6)

※上9(Upper9)、65、94、63、92、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陰 初6(First6)

「子狐が川を渡ろうとして尻尾を濡らしてしまう。恥をかくであろう。」

初爻 初六、其の尾を濡らす。吝。 (初六、濡其尾。吝。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


狐は、既済("Already Fording")でも未済("Not Yet Fording")でも、象徴動物です。

初6(First6)は子狐です。

彼は好奇心が強く、賢く、行動的です。

この子は「陰(Yin)」で、まだ自分の能力を正しく知りません。

狐は、川を渡る時、尻尾を高く上げて水に濡らさないようにします。

尻尾が濡れることは、失敗を意味します。

彼は川を前にして、渡ろうと挑戦しますが、あっけなく失敗して恥をかきます。

川は、課題や大きな仕事を意味します。


あなたは、今進めている仕事を失敗し、恥をかくでしょう。

しかし、失敗を経験しなければ、あなたの能力は発達しません。

あなたは恥ずかしい思いをしますが、あなたが悔しさを覚えれば、それは次回に生かすことができます。

何事も経験が大切です。

失敗に学び、次に生かしていきましょう。


◇2nd 陽 92

「彼は、車で川を渡ろうとするが、車を引き戻して止まる。彼は立場をわきまえて正しく行動している。吉である。」

二爻 九二、其の輪を曳(ひ)く。貞(ただ)しくして吉。 (九二、曳其輪。貞吉。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


この卦(Hexagram)ではすべてがミスマッチしていますが、92は高い能力を持っていて、多くの問題を解決できます。

92は、宰相です。

65が君主です。

君主は92を信頼し、いろいろな仕事を任せます。

92は君主の代わりに政治を行うので、ともすれば驕ってしまいそうです。

そこで、易経は戒めます。

あなたは川を渉るにしても、いったん踏みとどまって、車を引き戻しなさい。

あなたは、自分の立場をよくわきまえて慎重にやりなさい。

そうすれば吉となるでしょう、と。


この爻(Line)が出たら、あなたは役職が低いのに重大な仕事を任されます。

が、いい気にならず、一歩引き下がって謙虚になるべきです。

あなたはあくまでも君主の代理です。

このことを忘れずに、周りの人たちに気遣いしましょう。

そうすれば、あなたの評価は高まり、仕事もうまくいくでしょう。


◇3rd 陰 63

「彼は、未だに仕事を実行しない。今、仕事を進めれば凶だと理解している。こうした慎重さがあれば、大きな川を渡れる。」

三爻 六三、未(いまだ)に済(な)らず。征けば凶。大川を渉るに利あり。 (六三、未済。征凶。利渉大川。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


63は、実行責任者の立場にいますから、懸案の仕事を実行するべきです。

しかし、「陰」なので、彼は能力に欠けています。

また彼は慎重な性格です。

彼はこのまま仕事を進めれば、うまくいかないことを理解しています。

なので仕事を実行できないでいるのです。

しかし、今はいろいろなことがミスマッチした状況、彼のこうした慎重さは大切です。


あなたは自分の能力を冷静に判断して、できないことはやらないことです。

今は仕事を与えられてもあなたは実行できません。

機会を待ちましょう。

いずれは、大きな川を徒歩で渡るような大冒険ができるようになります。

今は、とどまってください。


◇4th 陽 94

「あなたは正しく修行していけば、吉であるばかりか、後悔することもなくなる。一念奮起して蛮族を討伐する。三年かかるが、征伐に成功し、宗主国から称賛されるだろう。」

四爻 九四、貞(ただ)しければ吉にして悔い亡(ほろ)ぶ。震(うご)いて用って鬼方(きほう)を伐(う)つ。三年にして大国に賞せらるることあり。 ※鬼方(きほう)=殷王朝を脅かした周辺の異民族。 (九四、貞吉悔亡。震用伐鬼方。三年有賞于大国。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


94は「陽」で、積極的で能力もあります。

しかし彼は「陰」が入るべき四番目の位置にいます。

これは、彼は能力があっても、経験や実力が不足していることを示します。

今は未済("Not Yet Fording")の時期なので、彼は自分の未熟さを正しく認識しなければなりません。

彼は自分の未熟さを認識したうえで、宗主国を脅かしている蛮族を討伐する戦いを開始します。

彼は経験不足ですから、蛮族の討伐は難航し、完了するのに三年はかかります。

しかし、結果的には彼は蛮族の討伐を完了させて、宗主国から手厚い恩賞を受けるでしょう。


あなたは今現在は経験不足ですが、自分の力不足を正しく認識して正しく努力すれば、少し難しい仕事でも成し遂げることができます。

目的を達成するために苦労するでしょうが、その苦労もあなたの貴重な経験となります。


◇5th 陰 65

「彼は正しくへりくだっているから、吉であるし後悔もしない。彼には中庸な賢者の輝きがある。誠実で大義があるから吉である。」

五爻 六五、貞(ただ)しくして吉、悔いなし。君子之光あり。孚(まこと)ありて吉。 (六五、貞吉无悔。君子之光。有孚吉。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


65は「陰」ですが、「陽」が入るべき五番目の位置にいます。

彼は君主ですが、能力はありません。

しかし彼は中庸で、自分に力がないのをよくわかっていますから、政治を有能な家臣に任せます。

彼に対応する92は「陽」で、彼と92は「陰」と「陽」で調和します。

92は宰相として立派な政治を行います。

君主は本来は「陽」であるべきですが、このようなケースでは、調整型の君主が有能な大臣に任せることで素晴らしい政治が行われます。

彼は自分に能力がないことを認めて、へりくだることができます。

彼は輝くような賢者なのです。


ミスマッチは、思わぬ効果が上がることもあります。

この爻(Line)は、ミスマッチがもたらす幸福な状況を描いています。

あなたはリーダーとしてすべてを自分がやらなくてもいいのです。

自分の能力を正しく理解し、能力のある人に任せる謙虚なリーダーは、賢者の輝きを発揮します。

この爻(Line)が出たら、あなたも謙虚になってください。

能力ある人に仕事を任せれば、あなたもリーダーとして輝くことができます。


◇6th 陽 上9(Upper9)

「彼は泰然として酒をあおる。誰が彼を咎められよう。しかし酒に溺れてしまっては、泰然の中の真実も消え失せてしまうから、彼はほどほどにすべき。」

上爻 上九、飲酒に孚(まこと)あり。咎(とが)なし。其の首(こうべ)を濡らすときは、孚(まこと)あること是(ここに)失わる。 (上九、有孚于飲酒。无咎。濡其首、有孚失是。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


上9(Upper9)は「陽」で、誰よりも高い能力を持っています。

しかし彼がいる場所は、属性がない一番上の位置です。

なんというミスマッチでしょう。

彼ほど能力があるものはいないのに、彼は島流しにあっているような状態、世界を救済する事業に参加できません。

ここは未済("Not Yet Fording")の終極点、ミスマッチの極限です。

しかし彼は、状況を泰然として受け入れ、不遇な人生を楽しみつつ酒をあおります。

これもまた人間の正しい在り方の一つ、誰が彼を咎められましょう。

ここには、大きな宇宙の中で一瞬の生を得て世界の流れに翻弄されつつも、世界を大きく受け入れて自分の人生を愛する人間の真実があります。

ただし、彼は飲みすぎには注意すべきです。

状況は常に変わります。

チャンスもまた来るはず。

酒におぼれていて動けなければ、彼はチャンスを生かせません。

なので易経は、最後に彼に飲みすぎを戒めます。


この爻(Line)が出たら、あなたは高い能力があっても誰にも認めてもらえません。

今は、そういう時期を受け入れましょう。

酒でも飲んで、暇な時期を楽しんでください。

ただし、世界は動き続けます。

状況は常に変化します。

不遇は幸運に変化します。

だから、飲みすぎないでください。

チャンスが来たら、いつでも動けるように準備しつつ、人生を今は楽しみましょう。


◇易経の終着点

さて、易経は未済(びせい="Not Yet Fording")の上9(Upper9)にて、64卦(Hexagrams)386爻(Lines)の記述を終わります。

最後、未来への無限の可能性を思い描きつつ、酒を美味しくあおっている人物の姿を象徴とし、易経は終了します。


世界は循環し、宇宙は循環し、人もまたいい時と悪い時を循環します。

したがって、易経がアクセスする世界には終わりというものはありません。

私たちも、大きな時間の流れの中で、いい時も悪い時もありますが、それらはすべて大きな循環の中の一瞬にすぎません。

どんなときでも驕らず、絶望することなく歩いていきましょう。

易経とは変化を意味します。

世界は変わっていきますし、人もまた変わることができます。

今が不遇であっても、自由意思で変わっていこうとするのが人間です。

そしてどんな人生でも、それはあなただけのかけがえのない人生です。

大切にしなければなりません。

どんなにつらい状況に直面しても、自分の人生を愛して生きていきましょう。


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